現在KORG Pa5X公式アンバサダーとして活躍いただいている、山本真一郎氏と鶴田美音氏から、これまでPa5Xを実際に使ってみて感じたことを伺うことができた。取材場所は山本真一郎氏の運営するコミュニティスタジオ宝塚。スタジオ中央にPa5X-88をセットいただき、座談会形式でPa5Xについて語り合ってもらった。
コルグ 今日はお集り下さりありがとうございます。山本さんも鶴田さんも2023年5月のJR東京駅構内で実施した「街角Pa5X」のイベントを皮切りに様々なPa5Xのプロモーションイベントでの演奏や動画への協力、個人の音楽活動の現場でPa5Xを1年近くお使いいただきました。まずは、その体験を通じてPa5Xのファースト・インプレッションからの変化についてお聞きしたいと思います。
鶴田 私はボタンやコントローラーがたくさんあるシンセサイザーが好きなので、第一印象はまずPa5Xの見た目がとてもカッコいいし面白そうだと感じました。ただ今までワークステーションでやってきたトラック毎にシーケンサーで作り込む作法ではなく、リアルタイムでスタイルを切り替えて演奏する作法だったので正直少し戸惑いました。特に自動伴奏機能付きキーボードの場合は、内蔵スタイルの演奏だけだとワンパターンになったりするのではないかと心配でした。
でも、実際に使ってみるとそんなことはなくて、例えばフィル・ボタンを押すタイミングで、短いフィルにも長いフィルのフレーズにも変化するので単調にはならず、ワンパターンにならない工夫がたくさんあることを発見しました。Pa5Xに触れば触るほど、普通の自動伴奏機能付きキーボードではなく、自由にコントロールできる楽器であるという印象に変わっていきました。
今はまだ収録されているフィルやスタイルから一番近いイメージのものを選びそれを修正したりしているだけですが、これからスタイルを一から作ったりして、自分の好きなジャンルのスタイルを少し増やしていくつもりです。そうすることでさらに自分の音楽が楽しめると思っています。
山本 私も長年コルグのKRONOS 2(※1)を愛用してきましたが同じような経験があります。通常、作曲やアレンジを行う場合、最初に曲全体の構成やストーリー展開をしっかりと煮詰めた上で、すべての音色を一つずつ丁寧に演奏し、重ねていきます。
そのため、Pa5Xにあらかじめ内蔵されている音色やリズムだけで簡単にプロフェッショナルな演奏ができるという謳い文句については、正直違和感がありました。これは長年、他社製の自動伴奏機能付キーボードのプレーヤーをしていたときにも感じたことです。
しかし、実際Pa5Xに触れてみると、私の中にあった違和感や先入観が見事に裏切られたのです。まずは何といっても「音色の良さ」。これは最も重要なポイントで、特にPa5Xに新たに搭載されたItalian Grandのサウンドは本当に素晴らしいの一言。実際、昨年各地で開催されたすべての公演で使用し、大変満足のいく演奏をすることができました。
次に、自動伴奏とは思えないインタラクティブなフィルやスタイルの反応に驚かされました。加えてパッドを使って自分の好きなタイミングでコンガや和音アルペジオなどを追加して演奏することもできる等、リアルタイムに自由度の高い演奏ができる素晴らしい楽器であることを再認識しました。
他社製の自動伴奏機能付キーボードを演奏していた時は、あらかじめ敷かれたレールの上を走っているような感覚、すなわち楽器側に主導権があるように感じたのですが、Pa5Xの場合はあくまで演奏者側に主導権があって、演奏者が自身の創造力と想像力を働かせながら、自由に演奏ができるんです。
鶴田 他社製の自動伴奏機能付キーボードの場合、演奏の途中でスタイルを変えたりフィルを入れたりできないのですか?
山本 機能としては存在しますのでできないことはないのですが、ほとんどの人は既成の譜面と自動伴奏データを購入し、そのデータを再生しながら譜面通り演奏するため、自分で音色やスタイルを選んだり、アドリブを入れる習慣がないことが一般的かと思います。
例えば地域毎の大会で同じ課題曲を演奏する人が続く場合、楽譜通りの演奏が求められるので、ソロの部分も含めて本当にそっくりの演奏が続くのでびっくりされると思います。
鶴田 それは基本的には楽譜に忠実に演奏することが求められるクラシック音楽のジャンルに近い気がしますね。あらかじめ完成形があってそこに寄せていくイメージ。例えばクラシックピアノのコンクールでも、弾き方の抑揚や強弱などで個性は出せますが、独自のアレンジや課題曲のリズムを変えたり、楽譜にない音を入れることは減点の対象になってしまうと思いますし。
山本 そうですね、たとえ譜面通りでなくてもいいよと言われたとしても、クラシック・ピアノの教育文化の土壌がある日本においては、カタチが決まっている方が何となく安心するという傾向があるのかもしれませんね。
ただ私個人としましては、そういう方にこそ思い切って敷かれたレールから飛び出し、好きな音色とスタイルを選び、Pa5Xを使って自由に演奏してほしいと思っています。Pa5Xはステキな素材が詰まった「宝箱のような楽器」ですから。
コルグ おーっ、宝箱ですか。素晴らしいお言葉ありがとうございます!なるほど。もっと自由に演奏を楽しむためには、敷かれたレールからの解放が必要ということですね。
鶴田さんは今までCM音楽をコルグのKROME EX(※2)を使ってたくさん作ってこられていますが、KROME EXと比較してPa5XでCM音楽を作る場合に求められるものは何ですか?
鶴田 Pa5Xの音色はそのままCM制作で使えるクオリティだと感じています。次回CM音楽ではリズムを入れるような指定は特に無かったのでPa5Xのピアノ音色やストリングスを使って製作しようと思っています。私はPa5Xのスタイルをそのまま使って映像音楽を作ったことは無いですが、リズム系のスタイルだけを使ったり、作曲やフレーズのアイデアやヒントになるのでCM制作にもとても重宝しています。
ただ、もしPa5XだけでCM音楽制作を作るとなった場合は、クライアントからピッタリ30秒とか15秒の尺で15フレーム空けてとかの細かい時間指定があるので「リアルタイム・レコーディング」だけでなく、「ステップ・レコーディング」機能があると嬉しいです。あと現在、曲のMP3の書き出しはできるのですが「WAVファイルの書き出し」にも対応してもらえると、ホントこれ1台で完結できると思います。将来のバージョン・アップに期待しています。
コルグ ご要望ありがとうございます。そうなんですよね。ステップ単位での編集は以前の機種にあったバッキング・シーケンス・モードが搭載されるとかなり便利になると思います。また音やエフェクト類の完成度が高いだけにWAVでの書き出しも欲しいですよね。我々も将来のバージョンアップの要望としてイタリアの開発チームにしっかり伝えておきますね。さて、山本さんは、ゴスペルクワイアの指導や独自のコンサートなどでもPa5Xを積極的にお使いいただいますが、今までの伴奏用のキーボードではなく、Pa5Xを使うことで何か変化はありましたか?
山本 はい、たくさんありますが、まずはPa5Xを設置した瞬間、皆さんが集まって来てくださるんです。中には普段キーボードを全く演奏しないという方まで「わあ、なんか凄そう!」と目を輝かせながら見に来てくださるので、よほど特別なオーラがあるのだと思います。音を出す前からこれだけ期待してもらえると、何だかとても嬉しいですね。
そして何といっても、仕上がりが全く別次元のクオリティになるところです。Pa5Xに搭載されている音色やスタイル(リズム)機能を使えば、自由度の極めて高い、即席のフルバンド演奏が実現できるため、ゴスペルクワイア指導や公演時にものすごく重宝しています。特にゴスペルクワイアにおいては、ピアノの音色だけの時に比べ、さらに声がよく出るようになり、体全体で表現できるようになったことがとても印象的です。Pa5Xがチームの熱量をぐっと底上げしてくれるんです。
コルグ 全国のゴスペルクワイア指導の先生方にも是非Pa5Xを使って欲しいですね。さて、以前クラシック・ピアノの先生からPaシリーズのリズムは日本の教育では習わないその国独特のリズムが多く収録されているので、視野を広げる意味でもPaシリーズを触って欲しいと言われたとことがあります。Pa5Xのリズムについて何かお感じになったことはありますか?
山本 そうですね、さすがMade in Italyということだけあって、国際色豊かなリズムが多数収録されているように思います。私の場合は、アフリカン・アメリカンゴスペルがルーツということもあり、打点がアウフタクト(弱起)から始まるものが多いため、Pa5Xに収録されているリズムは「まさにこれ!」という感じでした。
鶴田 J-POPの曲を演奏する際は、逆にそのようなリズムでないほうが良い場合もあるのですが、そこをあえて使って斬新で新しい雰囲気の演奏ができるという発見がありました。Pa5Xには日本人の文化圏ではイメージできないリズムがたくさん入っていることは演奏表現の幅を広げてくれると思います。
コルグ それでは、最後にこれからのお二人のPa5Xを使っていく上でのビジョンを聞かせてください。
山本 Pa5Xだけでワンマンバンドとして演奏をすることもできますが、これからのコミュニティ時代に対応する意味でも、「Pa5X stand-alone」はなく「Pa5X with」というテーマで、いろいろな分野のアーティストの方々とコラボをしていきたいと考えています。そこには必ず新しい発見と世界観があると確信しています。
鶴田 確かにPa5Xには、ほとんどすべてのパートが揃っているので、生楽器とのコラボで足りないパートは補うこともできるし、コラボには便利ですね。
山本 そうですね。また、先ほどから話題に出ている、他社製の自動伴奏機能付キーボード奏者とのコラボにもとても興味があります。お互いの得意とするところを活かしつつ、高め合うことができたらステキですよね。また私事ですがおかげ様で昨年会社創立20周年を迎えることができました。でも、まだまだ新しいことを精力的に学んでいきたいという思いに溢れています。実は半年前から元USJダンサーの三栖エリカさんからダンスを学んでいまして、そこで学んだことをゴスペルクワイアの指導にも少しずつ取り入れているのですが、明らかにクワイアが変わってきたんです。
鶴田 具体的にどのような変化があったのですか?
山本 クワイアの声や表情が格段にイキイキしたように思います。ご存じのようにコーラスや合唱出身者でクワイアに加わって下さる方はじっと動かずに歌われる方が多いのですが、ダンスのアイソレーションを取り入れることで、より生き生きと自由にゴスペルを歌うことにつながっています。今後も「Pa5X with」というテーマで未知の分野の方々とコラボをしていきたいと思っています。
鶴田 私はCM動画の音楽制作をする場合に、よく使っているソフトシンセの音だとワンパターンなサウンドになりがちなので、Pa5XのDNC機能(※3)でその楽器のもつ独特の演奏表現を取り入れた作品を増やしていきたいと思います。特に管楽器やオーケストラ系の音がとてもリアルなのでどんどん使っていこうと思います。
また、ちょうど先日、Pa5XとLunatica(※4)のライブイベントをさせていただきました。その時Lunatica奏者の荒川マナさんがアルトサックスでも演奏するコーナーがありましたが、まるでジャズバンドやオーケストラをバックにアルトサックスを演奏しているかのようにPa5Xの伴奏は自然な感じで生楽器に馴染むことを実感しました。
これは昔のワークステーション系シンセサイザーなどの主張の強い音色を使った伴奏では味わえない自然な演奏感でした。きっとPa5Xがパブなどでの演奏やボーカルや生楽器を想定したボイシングをしているからなのだと思います。私も「Pa5X with」というテーマでいろんな楽器とのコラボを続けていきたいと思います。
コルグ 長時間ありがとうございました。KORG Pa5X公式アンバサダーならではのお話をお伺いすることができました。Pa5Xの楽しさの可能性はまだまだ未知数ですので、その可能性を引き出すべく、これからもPa5Xのアンバサダーとしてご協力よろしくお願いします。
鶴田 美音 【プロフィール】
作曲家 / 鍵盤奏者
クラシック・ピアノを拝田正機氏、声楽を新藤昌子、ジャズピアノを岩瀬章光氏らに師事。国立音楽大学入学後、映像音楽に興味を持ち武蔵野美術大学映像学科に入学、在学中よりシンセサイザーでの映像音楽制作業務を開始。クリエイティブユニットMeMeMでは楽曲制作を担当する傍ら音楽スクールを主宰。作曲家としてCM、企業PV、インスタレーション作品を中心に様々な楽曲を手掛けるほか、KORGデモンストレーター、シンメルピアノデモンストレーター、AI音声合成・AI歌声合成などの研究開発を手掛ける(株)テクノスピーチの業務にも携わるなど幅広く活動。KORG Pa5X 公式アンバサダーとしても活動中。
MeMeM http://www.memem.jp
Presstone 鶴田 美音 https://www.presstone.jp/creators/tsuruta/
山本 真一郎 【プロフィール】
ゴスペル指導者 / シンガー / ピアニスト
株式会社ゴスペルミニストリーS.C.A代表、アーティスト&経営者として、関西を拠点に多彩な活動を展開中。アメリカドクター公認ボイストレーナー、KORG Pa5X公式アンバサダー、コンサルタント、サウンドクリエイター、スタジオオーナーとしての顔も持ち、あらゆる方法で世界中にGOOD NEWSを届けている。
<山本真一郎 公式SNSサイト>
・Instagram:https://www.instagram.com/sca_shinichiro
<企画・運営会社 公式WEBサイト>
・株式会社ゴスペルミニストリーS.C.A:http://www.shinscommunityacts.com